■9月28日(日)
今日からいよいよアンデス超えの道が始まる.
チチカカ湖畔のプーノまでは約300km. アンデス超えの中では距離の短いルー
トだけれど,それでもアレキパ県とプーノ県の県境では4500mくらいまで上が
るらしいからやはり油断はできない.
ちなみに4000m以上の世界というのは僕にとっては初めての体験となる.エク
アドルでは3500mの峠を越えた.自転車でなければ富士山に登ったコトがある
から3800m近くまでは上がったコトはある.しかし4000mはまだない.いった
いどんな世界なのだろう?
今日の目的地はアレキパから約20km先のユーラまでなので,ゆっくりと10時過
ぎに出発した.ユーラには温泉があるのだ. アレキパから100kmほど北に行っ
たチバイという町にも温泉があって,一般的にはソッチの方が有名なのだけど,
チバイはクスコへのルート上にあって,プーノへ向かう道からは大きく外れて
しまうので,今回はユーラ温泉へ寄るコトにした.
セントロを離れると緩い上りから始まった.市域の端まで辿り着くと再び荒れ
た砂漠の風景が戻ってきた.毎度のコトながら眼に優しくない景色である.
ユーラまではチャチャニ山を迂回するため,方角的には西に戻る事になるのだ
けど,思ったとおり太平洋からの風が強い★ しかし,ここで頑張れば明日か
らはこの風が追い風になってくれるはずだ! 今日はたかが20kmだ!と思えば
楽なものである.
ユーラはハイウェイから2kmほど外れた谷間にあった.町というより村だった.
しかし谷間に下りる1本の道には小奇麗なレストランが数軒並び,川沿いも綺
麗な公園になっていて感じのいい村だった.小奇麗なレストランと言っても町
中にあるお洒落な高級レストランの類ではない.田舎の集落に行くと食べれる
モノが限られてしまうのだけど,こういうレストランはメニューも豊富だし,
値段も庶民的で助かる.クイやセビッチェもメニューに載ってるけど,定食も
5ソルで食べれる.感謝々々である.
で,温泉に行ってみた.
あんまり期待していなかったのだけど,,,建物に近付くとムワッと硫黄の臭
いが強烈に漂った.入口もちょっと狭くて何となく日本の銭湯を思い出す感じ
だ.中を見ると2×3mくらいの小さなプール(湯船)が4つ並んでいる.これ
までの温水プールという感じではなくて期待値は上がる!
が,しかし,,,ぬるい! と言うより冷たい★
皆さんユックリと浸かっているから『あんまり熱くないな』とは思っていたけ
ど,まさかここまでとわ! ぬるいにも満たない.日本の温水プールの水くら
いと言ったところだろうか? あったまるなんて感じではない.いわゆる冷泉
というやつだろう,,,ガックシ★
それでも5ソル払ったし浸かってみた.雰囲気は日本の温泉に近いとは言って
も,やはり水着着用である.こんな狭い湯船で水着着用だとかえって不衛生な
気もする.
実際に浸かってみると,冷たいものの硫黄の臭いは強烈で,ここが確かに温泉
なんだなぁ,と実感する.これは炭酸泉というモノだろうか? しばらく浸か
っていると体中に小さな気泡がまとわり付いた.熱くないのは残念だったけど
何となく体には良さそうな感じだったので足を中心にマッサージしてみた.
温泉には1組の白人カップルがいたけど,彼らと僕以外は地元の人ぽかった.
1時間近く浸かっていたから,その後もしばらくは硫黄の臭いが残った.
レストランに行ってセビッチェとビールを頼んだ.これから4000m超えが待ち
構えているから,プーノまではお酒を飲まないでおこうと思っていたのだけど,
出来ないと分かっているコトを約束するものではないな思った.
■9月29日(月)
アレキパ県とプーノ県の県境の20kmほど手前にイマタという町がある.そのイ
マタの標高が4500mである. イマタまでは約100km,,,1日で行けない距離
でもないけど,2000mの上りなのでちょっと厳しいだろう.それに未体験の標
高4000mというコトもあるので,高度順化しながら行くコトにした.
使っている地図には,ここからちょうど50kmにカニャーワスという町が記され
ているので,今日はそこを目指すコトにした.
何m上るか不明だけど,50kmなのでちょっとユックリの7時半に出発した.
ハイウェイに戻る道も2kmで100m上がる急な上り.朝1番にこれはしんどい★
その先も急な上りから始まった.約10kmで400m上がって2940mになった.その
先は一旦下りに見えたけど,実際には上りが続いた.緩い上りが10km,その後
に急な上りが10km続いて3600mまで上がった.
ここまで来るとさすがに息が苦しくなってきた.ずっと上りが続いているのも
あると思うけどかなり息苦しい.富士山だと8合目?9合目? 陽射しはそこ
そこだけど,強い風も吹いていてそんなに暑くはない.それなのにやけに喉が
乾く.これもやっぱり高度が上がっているからだろうか??
ただ,風は強烈な追い風だ.ユーラを出た辺りでは殆ど感じなかったけど,標
高が上がるにつれて風が強くなって来た.走っている時はほとんど分からない
けど,止まって休憩すると,かなり強い風であるコトが分かる.恐らくこの風
はプーノまで,更にはボリビア南下中も味方になってくれる筈だ.
上りは続く.緩い上りで約10km.標高は3985m,,,ついに富士山を越えた!
相変わらず息苦しい上りだったけど,この先は平野が広がっていた.富士山よ
りも高い場所に広がる平野,,,なんだか不思議な感じだ.
ビクーニャ注意!の看板が立っていて,周りの平原には確かにビクーニャの群
がいた.時々,ハイウェイを横断するのもいる.アンデスを代表する動物とし
て,ビクーニャ,リャマ,アルパカがいるが,どれもラクダ科に属する動物ら
しい.たしかにビクーニャは顔も体付きもラクダによく似ている.適応高度は
違うけど,乾燥した場所で生きていける点も共通している.リャマとアルパカ
が古くから家畜として飼われてきたのに対して,ビクーニャは基本的に野生.
3種のなかでは最も均整のとれた体をしていて美しい.ちなみにアルパカはど
こからどう見てもヒツジだ.
平原の道を追い風を受けて快走する.ここまでの上りの45kmに6時間近く掛か
ったのに,最後の10kmは所々で立ち止まって写真を撮ったのに,30分掛からず
に走り抜けた.
到着したカニャーワスは予想以上に小さな村だった.ハイウェイ沿いに数軒の
家が並ぶだけで,とても寂しい村だ.しかし時刻は既に14時なので,今からイ
マタまで行くのは無理だろうし,今日,ユーラからここまで何もサービスが無
かったコトを考えると,恐らくイマタまでもサービスは無いと思われる.
今日はここで水を補給してから,数km走って野宿地を探そうと思っていたのだ
けど,思った以上に風が強くなってきているので,この村の家の陰にテントを
張らせてもらうコトにした.建設中の家があったので,その陰に張らせてもら
おう.一応,警察の人に許可をもらうコトにした.
すると警察の人は「こんな寒いトコでテントを張って寝るのか?」と言った後
で「ちょっとコッチおいで」と言って,警察の建物の中にある部屋をあてがっ
てくれた.実際,この風の中でテントを張るのはちょっと億劫になりかけてい
たので助かった.
■9月30日(火)
今日の目的地は約50km先のイマタ,,,標高は4500mだ.
警察のオジサンは宿代として10ソルを要求してきた.えっ! お金とるの!?
昨日はお湯を沸かすのにガスコンロも貸してくれたりしたけど,シャワーはも
ちろんトイレもないし,夜は電気も付かなかったので10ソルはちょっと高い.
5ソルにディスカウントしてもらった.
7時過ぎに出発した.風はウソのように止んでいた.この風は追い風だから朝
から吹いてくれても問題なかったのだけどなぁ...
先ずは緩い下りから始まったけど,サンバイ川を渡ると直ぐに上りに転じた.
そして何故か,,,向かい風?! 昨日の区間は確実に年中追い風区間だった.
道端の草のお辞儀具合がそれを示していた.しかし,ここは道端の草がお辞儀
をしていない...少なくともチチカカ湖まではずっと追い風だと思っていた
のだけど,,,なかなか上手くいかない.
その先の急な上り坂でトレーラーエンスト事件が起きた.
僕を追い越そうとしたトレーラーだったけど,反対からもトレーラーが2台続
けてやって来たので追い越しを諦めてくれた.ここは路肩が砂利になっている
上に,車道の端が盛り上がっているため,僕は車道の少し内よりを走っていた
のだった.せめて車道の端を走れればトレーラーは追い越せたのだろうけど,
自転車の超低速に合わせるのは1台が限界だった.2台目のトレーラーがすれ
違う前にエンストを起こしてしまったのだ.この急坂で重たいトレーラーがエ
ンストすると復帰が大変だ.
なんとかエンジンを掛け直して超低速で上ってきたトレーラーに,手を合わせ
て「ごめんよ」のポーズをすると,運転手は両手で大きな丸を作ってくれた.
こういうのは気持ち良いなぁ...
しかし,その先の急な下りではイヌ激突事件が起きた.
下りの途中で犬がコッチに向かってきた.犬は必死に逃げれば,それだけ勢い
を増して追いかけてくるけど,逆にスピードを落としたり,止まるとそれ以上
は近付いて来ない.しかし,この下りの先には急な上りがあったので,今回は
スピードを落としたくなかった.それで,逆に犬の方に自転車を寄せてやった.
この方法も有効なのだけど,今回のバカ犬は僕が自転車を近付けた瞬間によそ
見をして,そのままの勢いで突っ込んできた★ 慌ててブレーキを掛ける.荷
物満載の後輪がかなりフラついたけど,なんとか転倒は免れた.犬が激突した
左側のサイドバッグが落ちてしまったけど,右にはパソコンとかが入っていて,
コッチが落ちなくて良かった.
約40kmで4300mまで上って,イマタまで残りの10kmちょっとは平らな道だった.
イマタにはホテルがあると聞いていたのだけど,ホテルは無かった.ここから
50kmほど,プーノ県側のサンタ・ルシアまで行けばホテルはあるらしい.ずっ
と下りだから自転車でも2時間くらいで行けるよ,と言われたけど,県境には
峠もある筈だし鵜呑みにするのは危険だな.
時間はまだ13時過ぎだけど,今日も上り&向かい風で疲れている.10〜20kmく
らい走って,レストランかキャンプに良さそうな場所を見つけてキャンプする
コトに決めた.
イマタを出ても平原が続いたけど,向かい風が強くて思った以上に疲れる.
結局,ちょうど10km走ったトコロにレストランがあったので,そこで終了した.
■10月1日(水)
今日から10月だ.今年も残り3ヶ月だ.
風は夜にはピタリと止んだ.5時に起きて撤収.風が無かったから設営よりも
楽にできた.6時過ぎに出発した.今日の目的地はサンタ・ルシアの予定だっ
たけど,この先が下り中心の道であるなら約120km先 チチカカ湖畔のフリアカ
まで一気に行ってしまおうと思い,ちょっと早めに出発した.
引続き平坦な道が続いた.今朝は風がないから楽だ.その先にちょっとした上
りがあって,それを上り切ると4405mになった,,,ここが峠か? 案内板の
類がないから分からない.とりあえず標高をメモして出発した.1kmほど下っ
て直ぐに上り返し,,,その先に峠があった.ここが峠である事と標高4528m
を記した看板があるだけだった.しかし,腕時計の高度計は4370mを表示して
いる...まぁ誤差があるのは仕方ないけど,コレだったら少し手前で超えた
場所の方が標高高かったのでわ?!
峠を越えると緩やかに下る道が5kmほど続いたけど,その先はアップダウンの
道になってしまった.そんなに急な上りではないのだけど,この標高だとそれ
でもかなりツライ★ その先に大きな湖があって,湖畔まで一気に下った後で
上り返しが待ち構えていた.実際には200mほど下って,200mほど上る道で,普
段ならそんなに大変じゃないのだけど,この標高では上りがとにかくキツイ★
しかし,その上り返しを超えると,谷間の平らな道が待っていた.
前後左右を高い山に囲まれているのだけど,谷間に緩やかに流れる川に沿った
道も平坦な道が続いた.いつ上りが現れるか?と思いながら進んだけど,上り
は現れないままサンタ・ルシアの町に着いた.途中までのアップダウンが思っ
た以上に大変だったから60kmに5時間近く掛かったけど,時刻はまだ11時前だ.
この先も川に沿った道が続くみたいなので,フリアカを目指すコトにした.
行く手は山に囲まれているけど,川に沿った道は緩やかに下っていく.山と山
の間に谷間は続く.30kmほど走ってカバニージャスという町に到着した.途中
で昼食をとったので時刻はちょうど13時だった.このままフリアカまで走って
も良かったけど,明日はプーノまでそんなに距離もないから今日はここまでに
した.
フリアカとアレキパを結ぶ鉄道が町の真ん中を貫いていて,線路沿いには木が
立ち並んでいて雰囲気が良かった.この線路沿いにカフェやビールの飲めるレ
ストランなんかがあればもっと良かったのだけど,,,町は閑散としていた.
この路線では今でも1日に数本の貨物の運転があるのを目撃したけど,同じ保
線作業をするのだから観光列車なんかも運行すれば良いのにと思った.途中に
4500mの峠を超えるし,アルパカやビクーニャも見れる,なかなかの観光路線
だと思うのだけどなぁ...
ところで,カバニージャスの町の標高は3785mを表示したけど,駅舎跡の看板
に書かれてあった標高は3885mとなっていた.やはり100m近くの誤差がある.
腕時計の高度計は1000m〜2000m台までは割りと正確な値を表示するけど,そ
れより標高が上がると少しずつズレが大きくなる.またビーチで測っても50m
とか表示する.まぁ,これくらいのズレは仕方ないだろう.
■10月2日(木)
今日はプーノまで,平らな道を70kmくらいの予定だ.7時過ぎに出発した.
フリアカまでは平らな道が続いた.しかし道が悪い★ 昨日,サンタ・ルシア
の1km手前で料金所を通過してから道がデコボコになってしまった.亀の甲羅
の様なヒビ割れ,ムリヤリな継ぎはぎでダートを走っているみたいだ.
逆に料金所を超えるまでは町も村も殆どない山道だったにも関わらず,路面の
状態は良かった.普通は逆だと思うんだけどなぁ...
フリアカは割りと大きな街だったけど,民族衣装の多さに先ずはビックリした.
ここプーノ県や,マチュピチュのあるクスコ県は先住民率のとくに高い地域だ
とは聞いていたけど,見た感じ,行き交う人の半分以上がインディヘナっぽい.
これは僕が通過した場所がたまたまそういう場所だったのかも知れないけど,
これまでの街とは明らかに感じが違っていた.大きな街なんだけど活気のある
田舎の村にも見えなくない.
屋台で朝食をとってプーノを目指した.
チチカカ湖はすぐ近くのはずなんだけど,遠くまで広がる牧草地しか見えない.
フリアカとプーノの間にシュスターニというインカの遺跡がある.今日はそこ
に立ち寄って行こうと思っていたのだけど,分岐からは14kmも先にあるらしい.
フルパッキングの自転車を遺跡の入口に置いて見学するのもためらわれたので,
遺跡には後日ツアーで行くコトにした.
プーノまで残り10kmほどで山越えがあった.鉄道は山を迂回している.プーノ
の街は湖畔にあるはずなので,線路に沿っていけば上らずに済むはずなんだけ
どなぁ...しかも結果的に200mも上った★ 最期に疲れてしまったけど,峠
から見降ろすプーノの街は良かった.ここまでに平らな土地がたくさんあった
のに,プーノは山と湖に挟まれた僅かな盆地に広がる街だった.山の斜面にも
たくさんの家が建っていて,なんとなく神戸っぽい.
一気に下ってプーノのセントロに着いた.目的のホテルを探すのに少し手間取
ったけど,アンデス超えの旅も無事に終了した.